「造作譲渡契約書に、収入印紙はいくら貼ればいいのでしょうか」
「調べたら『不要』と『2万円必要』の両方が出てきて、どちらを信じればいいのか分かりません」
この質問は、契約書を作る段階に入った売主から必ず届きます。そして調べるほど混乱する。それもそのはずで、ネット上には正反対の答えが両方載っています。
店を手放そうとする方の足が止まる理由は、だいたい3つです。誰にも知られずに終わらせたい。買い取り業者に買い叩かれたくない。そもそも自分の店に値段が付くのか分からない。
ですが飲食店の居抜きは、いま買い手が動いている領域です。開業コストが上がり続けているため、内装と厨房が生きている店舗を探す買い手は途切れません。正しい順番で動けば、静かに、そして高く手放せます。
結論から申し上げます。「不要」も「課税」も、どちらも正しい。分かれ目は取引の名前ではなく、契約書に何を書いたかです。
造作という動産だけを売る契約書に、印紙税はかかりません。ところが同じ契約書に営業権や得意先の引き継ぎを1行入れた瞬間、課税文書に変わる。これは条文を開けば確定できる話だ。
当社はナイトレジャーと飲食店のM&A仲介・居抜き・造作譲渡を専門に扱っています。この記事では、印紙税法の条文と国税庁の公表資料だけを根拠に、貼るべき額と貼らずに済ませる方法を確定させます。
この記事で分かることは、次の5点です。
- 造作譲渡契約書が課税文書になる場合とならない場合の分かれ目
- 課税された場合の具体的な税額と、不動産の軽減税率が使えない理由
- 契約書より見落とされている領収書の印紙
- 消費税の書き方を変えるだけで印紙代が下がる仕組み
- バレずに高く売るために、契約書を作る前にやるべきこと
結論|造作だけなら不課税、営業を入れた瞬間に課税される
印紙税は、文書の名前ではなく中身で判定されます。まず条文の列挙を見てください。ここに何が入っていて、何が入っていないかがすべてです。
印紙税法2条は「別表第一の課税物件の欄に掲げる文書には、この法律により、印紙税を課する」と定めています。つまり別表第一に載っていない文書には、そもそも課税されません。
その別表第一の第1号は、課税対象をこう列挙しています。
不動産、鉱業権、貯留権、二酸化炭素の貯留事業に関する法律第二条第八項に規定する試掘権、無体財産権、船舶若しくは航空機又は営業の譲渡に関する契約書
読み返してください。内装・厨房設備・什器といった動産は、この列挙のどこにも入っていません。国税庁のタックスアンサーNo.7101も同じ内容を示しています。
したがって、造作という動産だけを売買する契約書は第1号文書に当たらない。他の号にも当たらないため、印紙は不要です。
ただし、ここには例外が1つあります。同じ契約書に「代金を受領した」という受領文言を入れると、その契約書は第17号文書(金銭の受取書)を兼ねます。「領収書」という名前でなくても、受取書として課税判定を受けます。契約書と領収書は分けて作るのが安全です。
問題はもう一方です。列挙の末尾に「営業の譲渡に関する契約書」があります。営業そのものを引き継ぐ内容なら、動産の話であっても課税文書になる。
なぜ「不要」と「必要」が両方出回るのか|分かれ目は契約書の中身
答えが割れている原因は、条文の解釈ではありません。「造作譲渡」という言葉が、性質のまったく違う2つの取引を指して使われているからです。
内装と設備だけを売って店から降りる取引と、営業をそのまま引き継いでもらう取引。現場ではどちらも造作譲渡と呼ばれます。しかし印紙税法から見れば、この2つは別物です。
営業の譲渡に当たるかどうかは、契約書に次のような要素が入っているかで判断されます。得意先や顧客名簿の引き継ぎ、営業権やのれんの対価、従業員の引き継ぎ、レシピや商標といったノウハウ、そして競業避止の約束です。
| 契約書の中身 | 該当する号 | 印紙 | nightmaの評価 |
|---|---|---|---|
| 内装・厨房設備・什器の売買だけ | いずれの号にも当たらない | 不要 | 造作譲渡の本来の形。ここに収まるなら貼る必要は無い |
| 上記に営業権・得意先・従業員の引き継ぎを追加 | 第1号(営業の譲渡) | 必要 | 1行足しただけで課税文書に変わる。意識せず入れている契約書が多い |
| 事業譲渡契約書として作成 | 第1号(営業の譲渡) | 必要 | 最初から課税前提。金額区分の確認だけでよい |
| 金額を書かずに別紙で定める | 第1号(記載金額なし) | 一通200円 | 営業の譲渡に当たる場合、金額を伏せても200円はかかる |
【NightMA 専門家の視点】
実務でよく見るのは、造作の売買のつもりで作った契約書に「従業員は買主が引き継ぐものとする」の1行が入っている形です。書いた本人は親切のつもりでも、印紙税では意味が変わる。何を譲渡対象に入れるかは、そもそも手取りと責任の範囲を決める判断です。契約書の必須条項は造作譲渡契約書の書き方で整理しています。
1号文書になったら、いくら貼るのか
課税文書に当たると判定された場合の税額は、契約書に書かれた金額で決まります。印紙税法別表第一の第1号が定める本則の税率は次のとおりです。
| 契約金額 | 印紙税額 | 造作譲渡での位置づけ |
|---|---|---|
| 1万円未満 | 非課税 | 該当しない |
| 10万円以下 | 200円 | 小規模な設備のみの譲渡 |
| 10万円超50万円以下 | 400円 | — |
| 50万円超100万円以下 | 1,000円 | 小箱の造作譲渡でよくある帯 |
| 100万円超500万円以下 | 2,000円 | 最も件数が多い帯 |
| 500万円超1,000万円以下 | 1万円 | 設備の良い店舗 |
| 1,000万円超5,000万円以下 | 2万円 | 営業ごと譲渡する規模 |
| 契約金額の記載が無いもの | 200円 | 金額を別紙にしても課税は消えない |
不動産の軽減税率は、ここには効かない
ここで注意が要ります。印紙税額の一覧表を載せている記事の多くは、軽減後の金額を書いています。その軽減は、あなたの契約書には効きません。
租税特別措置法91条が軽減の対象としているのは「不動産の譲渡に関する契約書」と、建設業法に基づく「建設工事請負契約書」の2つだけです。営業の譲渡に関する契約書は入っていません。
たとえば契約金額1,000万円超5,000万円以下の場合、不動産譲渡契約書なら1万円ですが、営業の譲渡に関する契約書は本則どおり2万円になります。軽減表を見て金額を用意すると、足りません。
見落とされるのは契約書より領収書|第17号文書
ここからが本題です。造作だけの譲渡で契約書が不課税だったとしても、代金を受け取って領収書を書いた瞬間、そちらは確実に課税されます。
印紙税法別表第一の第17号は、売上代金に係る金銭の受取書を課税対象としています。非課税とされるのは「記載された受取金額が五万円未満の受取書」と「営業に関しない受取書」だけです。
造作譲渡代金が5万円未満で収まることは、まずありません。国税庁のタックスアンサーNo.7105が示すとおり、金額に応じて次の額がかかります。
| 受取金額 | 印紙税額 | nightmaの評価 |
|---|---|---|
| 5万円未満 | 非課税 | 造作譲渡では現実的でない |
| 100万円以下 | 200円 | — |
| 100万円超200万円以下 | 400円 | — |
| 200万円超300万円以下 | 600円 | — |
| 300万円超500万円以下 | 1,000円 | — |
| 500万円超1,000万円以下 | 2,000円 | この帯が多い |
| 1,000万円超2,000万円以下 | 4,000円 | 契約書が不課税でも、ここは必ず発生する |
【提言】
契約書の印紙ばかり調べて、領収書で貼り忘れる売主が多い。逆です。造作だけの譲渡なら、課税されるのは領収書のほうです。なお代金を銀行振込で受け取り、領収書を発行しなければ、課税文書そのものが作成されません。振込明細が受領の証拠として残るためです。
消費税を分けて書くだけで、印紙代が下がる
もうひとつ、書き方だけで税額が変わる論点があります。国税庁のタックスアンサーNo.7124は、消費税額等が区分記載されている場合、その消費税額等を印紙税の記載金額に含めないとしています。
適用があるのは第1号文書・第2号文書・第17号文書の3つです。造作譲渡の契約書と領収書は、まさにこの範囲に入ります。
ただし前提が1つあります。この扱いが使えるのは、課税事業者が作成する文書だけです。同じNo.7124は免税事業者について、「その取引に課されるべき消費税および地方消費税がありませんから、たとえ受取書等に『消費税および地方消費税』として具体的金額を区分記載したとしても、これに相当する金額は記載金額に含めることになります」としています。売上1,000万円以下で免税事業者のまま店を手放す場合、次に見る減額は効きません。
効き方を実額で見てください。造作譲渡代金1,100万円(うち消費税100万円)の領収書を例にします。
| 領収書の書き方 | 記載金額の判定 | 印紙税額 | nightmaの評価 |
|---|---|---|---|
| 1,100万円(税込) | 1,100万円 | 4,000円 | 国税庁は「税込」表記を区分記載と認めていない |
| 1,100万円 うち消費税額等100万円 | 1,000万円 | 2,000円 | 1行足すだけで半額になる |
| 1,100万円 税抜価格1,000万円 | 1,000万円 | 2,000円 | この書き方でも同じ扱い |
| 消費税額等10パーセントを含む | 1,100万円 | 4,000円 | 金額が明らかでないため区分記載と認められない |
1号文書に当たる契約書でも同じことが起きます。1,100万円を税込で書けば2万円、区分記載すれば記載金額1,000万円となり1万円です。知っているかどうかだけで1万円が動く。
店舗の賃貸借契約書に印紙は要るのか
ここも誤解が多い論点です。結論として、建物だけの賃貸借契約書に印紙は要りません。
別表第一の第1号の2が課税対象としているのは「地上権又は土地の賃借権の設定又は譲渡に関する契約書」です。建物の賃貸借は、この文言に含まれていません。
保証金や敷金の記載があっても変わりません。国税庁は、記載金額に当たるのは設定または譲渡の対価であり、後日返還される保証金・敷金や賃貸料は含まないとしています。
なお、その保証金がいつ戻るかという別の論点は明け渡しと引き渡しの違いで条文から整理しました。
電子契約にすれば、印紙代はゼロになる
ここまでの税額を全部消す方法があります。電子契約です。印紙税は文書に対して課される税だからです。
印紙税法3条は、納税義務を負うのを「課税文書の作成者」と定めています。国税庁は質疑応答事例で、電磁的記録は印紙税法上の文書に含まれないという整理を示しています。
紙の原本を作らず、電子データのまま契約を成立させれば、課税文書が作成されないため印紙税は発生しません。当社が案件で電子契約を使っているのは、この理由が大きい。
【NightMA 専門家の視点】
1,000万円規模の造作譲渡を紙で進めると、契約書2万円と領収書4,000円で2万4,000円が消えます。電子契約に変えるだけで、この全額が残る。しかも印紙税法3条2項は、一の課税文書を2人以上で共同作成した場合、連帯して納める義務を負うと定めています。売主と買主のどちらが払うかで揉める余地も、電子にすれば最初から生まれません。
貼らなかったときに、何が起きるか
貼り忘れは「後から貼れば済む」話ではありません。印紙税法20条が過怠税を定めています。
同条1項は、納付すべき印紙税を課税文書の作成の時までに納付しなかった場合、納付しなかった税額と、その2倍に相当する金額との合計額を徴収すると定めています。つまり本来の3倍です。
同条2項に救済があります。税務調査を受ける前に自主的に申し出た場合、税額と、その10パーセントを乗じた金額の合計、つまり1.1倍に軽減されます。気づいた時点で自分から申し出るほうが、はるかに安い。
見落とされがちなのが3項です。印紙を貼っても消印を忘れた場合、消されていない印紙の額面金額に相当する金額が徴収されます。貼った意味が無くなるどころか、二重に払うことになる。
| 状況 | 徴収される額 | 根拠 | nightmaの評価 |
|---|---|---|---|
| 貼らずに調査で指摘された | 本来の税額の3倍 | 20条1項 | 2万円の契約書なら6万円 |
| 調査の前に自分から申し出た | 本来の税額の1.1倍 | 20条2項 | 気づいたら黙らずに申し出る |
| 貼ったが消印を忘れた | 印紙の額面金額に相当する額 | 20条3項 | 割印を押すだけで防げる |
| 過怠税の合計が1,000円未満 | 1,000円 | 20条4項 | 200円の文書でも1,000円になる |
なお、印紙を貼らなかったことで契約そのものが無効になることはありません。効力の問題と、税の問題は別です。それでも3倍は重い。
買い取り業者に売る前に|仲介との違い
印紙代を気にする段階まで来ているなら、その前に確認しておくべきことがあります。相手が誰かによって、手元に残る金額の桁が変わるからです。
買い取りは、安く仕入れて高く転売することで成立する商売です。売主の手取りを削ることが利益の源泉である以上、高値は構造的に出ません。数千円の印紙代より、こちらのほうがはるかに大きい。
当社は仲介として、複数の買い手を水面下で競わせて価格を引き上げます。店名を伏せたノンネームで進めるため、従業員や取引先、常連客に知られることもありません。売り方ごとの手取りの違いは居抜きの引き継ぎ・売却にまとめています。
契約書を作る前のチェックリスト
ここまでの内容を、作業の順番に並べます。上から潰してください。契約書の文言を決める前の段階で、負担する額が決まります。
契約書の中身を決めるときに確認すること
課税されるかどうかは、この5点で分かれます。書く前に決めてください。
- 譲渡対象が内装・設備・什器だけに収まっているか確認した
- 営業権・のれんの対価を計上していないか確認した
- 得意先・顧客名簿の引き継ぎを書いていないか確認した
- 従業員の引き継ぎを書いていないか確認した
- 上記を含める場合は、第1号文書として税額を確認した
金額の書き方で決めること
同じ金額でも、書き方で税額が変わります。締結前に整えてください。
- 消費税額等を区分記載した(「税込」だけの表記にしていない)
- 区分記載後の金額で税額区分を確認した
- 不動産の軽減税率を誤って当てはめていないか確認した
- 売主と買主のどちらが印紙代を負担するかを契約書に明記した
締結と入金のときにやること
ここで貼り忘れと消印忘れが起きます。当日の作業として決めておいてください。
- 電子契約で締結できないかを先に検討した
- 紙で作る場合、正本の通数だけ印紙を用意した
- 貼った印紙に消印(割印)を押した
- 代金は振込にし、領収書を発行しない形にできないか検討した

まとめ|印紙代は「取引の名前」ではなく「書いた中身」で決まる
造作譲渡契約書に印紙が要るかという問いに、一律の答えはありません。別表第一の第1号が課税対象に挙げているのは営業の譲渡であって、動産の売買ではないからです。
造作という資産だけを売るなら、契約書は課税文書になりません。営業を引き継ぐ内容を入れれば課税されます。判定を動かしているのは、あなたが契約書に書いた1行だ。
そして契約書が不課税でも、領収書は課税されます。ここを取り違えて、契約書の印紙だけ調べて安心する売主が多い。
もっとも、電子契約にすればこの全部が消えます。数千円から数万円の話ですが、手続きを変えるだけで残る金額です。
なお、個別の契約書がどちらに当たるかの最終的な判断は、所轄の税務署または税理士に確認してください。本記事は条文と国税庁の公表資料に基づく整理であり、税務代理を行うものではありません。
当社は中小M&Aガイドラインに沿って、飲食店・ナイトレジャーのM&A仲介、居抜き売買、造作譲渡の3つを扱っています。契約書の設計から締結まで、提携する専門家とともに進めます。
NightMAの経営提言:
印紙代を調べている売主は、すでに正しい場所に立っています。契約書の文言が金額を動かすと気づいているからだ。ただし、動く金額の桁は印紙税より譲渡価格のほうが2桁大きい。数千円を詰める前に、その価格が適正かを一度だけ確認してください。
売ると決めていなくても構いません。契約書に判を押す前であれば、条件の整理から入れます。それだけで手取りが変わる案件を、当社は何度も見ています。


