「この店、いくらで売れるんだろう」。売却を考え始めた経営者が最初に調べるのは価格です。ただ、その次に来る不安のほうが足を止めます。
① 二束三文で買い叩かれるのではないか ② 従業員や取引先に知られたくない ③ そもそも自分の店に値段が付くのか——この3つです。
ですが飲食・ナイトの店舗は、営業していて内装と設備が生きている状態でこそ買い手が動きます。造作がそのまま使える店は、いま探している人にとって最も手間が少ないからです。正しい順序で動けば「静かに・高く」売れます。
結論から申し上げます。高く売るとは、売り出し価格を上げることではありません。希望額に対して何パーセントで決まるか——成約率を上げることです。
本記事では、当社の査定実務で使っている成約率の基準を開示したうえで、スキームで25ポイント、時間で35ポイント動く構造と、いま準備できることを順に解説します。バレずに高く売る手順まで含めて示します。
結論|高く売るとは、成約率を上げること
売却の相談で最も多い誤解が、売り出し価格を高くすれば手取りが増えるという考え方です。実際には逆に働くことがあります。
高く出しても買い手が付かなければ、時間だけが過ぎます。そして時間が減るほど交渉力は落ち、最後は値下げに追い込まれる。価格は「置いた数字」ではなく「決まった数字」で測るべきだ。
| 何を動かすか | 手取りへの影響 | nightmaの評価 |
|---|---|---|
| スキーム(どう売るか) | 成約率で25ポイント | ◎ 最初に決める。ここが最大 |
| 時間(いつ動くか) | 成約率で35ポイント | ◎ 早いほど有利。取り返せない |
| 売り出し価格の置き方 | — | △ 高く置いても決まらなければ意味がない |
| 清掃・写真・見せ方 | 限定的 | ○ やるべきだが、これで桁は変わらない |
希望額と成約額は違う|スキーム別の成約率
ここから当社の査定実務で使っている基準を開示します。売主の希望額に対して、実際にいくらで成約するかの比率です。
先に断っておくと、これは公的統計ではありません。当社が案件を評価するときに用いている社内基準で、公開M&Aプラットフォームの実取引データと自社の実務から作っています。
| スキーム | 成約率レンジ | 中央値 | 何を渡すか |
|---|---|---|---|
| 株式譲渡(黒字・優良案件) | 80〜95% | 87% | 法人ごと。許認可も契約もそのまま |
| 事業譲渡 | 70〜85% | 78% | 営業・顧客・スタッフ・許可 |
| 居抜き売買 | 60〜80% | 70% | 物件と造作 |
| 造作譲渡(低額) | 50〜75% | 62% | 内装・設備・什器のみ |

造作62%と株式譲渡87%、その差は25ポイント
同じ店でも、売り方を変えるだけで成約率が25ポイント動きます。これは値引き交渉の巧拙ではなく、買い手が何を買っているかの違いです。
造作譲渡で買い手が手に入れるのは内装と設備です。中古の資産なので、状態を見て値切る余地が大きい。
いっぽう株式譲渡で買い手が手に入れるのは、稼いでいる事業そのものです。収益が続く前提で買うため、値切ると自分の投資回収が遅れるだけになる。だから値引き幅が小さくなります。
売り急ぐと35ポイント落ちる|状況別の成約率
スキームと並んで、いや実務ではそれ以上に効くのが時間です。同じスキームでも、売主の状況で成約率が変わります。
| 売主の状況 | 成約率 | なぜそうなるか |
|---|---|---|
| 黒字安定・好立地・売主に余裕 | 85〜95% | 断れる。だから条件を選べる |
| 黒字だが平凡 | 70〜85% | 比較検討される |
| 赤字・売り急ぎ | 50〜70% | 期限が相手に見える |
| 困窮売却(廃業を避けたい) | 40〜60% | 選択肢が無いことが伝わる |

「いつまでに」が相手に伝わった瞬間に価格は決まる
買い手は必ず退去期限を確認します。解約予告を出した後だと、売主に残り時間が無いことが分かってしまう。
そこから先は、こちらが提示する価格ではなく、相手が提示する価格の勝負になります。売り急ぎが価格に出るのは、交渉が下手だからではない。構造上そうなる。
逆に言えば、営業を続けたまま、期限を作らずに買い手を探せる状態が最も高く売れます。撤退の判断そのものは飲食店の撤退基準で解説しています。
【NightMA 専門家の視点】
売却相談で最初に伺うのは価格の希望ではなく、賃貸借契約の解約条項です。予告期間と残存期間が分かれば、使える時間が決まり、使える時間で取れるスキームが決まります。順番はいつも同じだ。時間 → スキーム → 価格。この順で決まるのに、多くの方が価格から考え始めて時間を失います。
最初に決めるのはスキーム|3つの分岐
成約率の差がスキームで生まれる以上、最初にやるべきは「自店はどれが使えるか」の確認です。
造作譲渡|内装・設備だけを譲る
最も手軽で、最も早く終わります。当社が一次確認した実勢では、飲食店の造作譲渡料は100〜350万円が中心帯です。
| 業態 | 造作譲渡料の目安 | nightmaの評価 |
|---|---|---|
| 軽飲食(カフェ・バー・スナック・テイクアウト) | 100〜200万円 | ○ 設備が軽く買い手の裾野が広い |
| カラオケ・パブ・スナック(実績平均) | 168.6万円 | ○ ナイト系は当社の主戦場 |
| 重飲食(中華・焼肉・居酒屋) | 200〜400万円超 | ◎ ダクト・排気が効くほど高く出る |
| 設備が古い・郊外・不要什器が多い | 0円(無償譲渡)もある | △ それでも原状回復費は消える |
比較として、スケルトンに戻して明け渡す場合は原状回復に坪あたり5〜15万円かかります。10坪なら50〜150万円の持ち出しです。造作譲渡はこれが消えたうえで譲渡料が入るので、収支の符号が変わります。
事業譲渡|営業ごと渡す
営業・顧客・スタッフ・許認可まで含めて引き渡します。評価の対象が資産から収益力に変わり、小規模飲食では営業利益の1〜数年分が中心帯です。
公開されている成約例では、年商3,500万円・営業利益500万円の焼肉店が900万円で成約しています。営業利益の約1.8年分です。
そして飲食店には制度上の利点があります。廃業すれば食品衛生法にもとづく営業許可は消滅しますが、同法第56条により事業譲渡なら譲り受けた側が許可営業者の地位を承継できます。
東京都保健医療局の案内では、令和5年12月13日以降の譲渡が対象で、営業の全部を譲渡する場合に限られ、譲渡人が保健所に事前相談するとされています。買い手にとって「営業を止めずに引き継げる」ことは価格に乗ります。
株式譲渡|法人ごと渡す
成約率が最も高いスキームです。許認可も賃貸借契約も名義がそのまま残るため、買い手の手間とリスクが最小になります。
ただし法人であること、簿外債務が無いこと、決算が整っていることが前提です。個人事業では選べません。
自店がどのスキームを使えるか、無料で確認
店名を出さずに概算レンジをお伝えします。
営業中・赤字でも査定できます。
飲食店・ナイト店舗のM&A・居抜き・造作譲渡。
※ しつこい営業はありません
スキームを「持ち上げる」条件
造作譲渡しか選べないと思っていた店が、事業譲渡や株式譲渡に持ち上がることがあります。成約率が25ポイント動く以上、ここは確認する価値があります。
| 条件 | 持ち上がる | 造作譲渡に留まる |
|---|---|---|
| 収益 | 営業利益が出ている | 赤字が続いている |
| 属人性 | オーナー不在でも回る | オーナーの人柄が売上の中心 |
| 許認可 | クリーンで承継できる | 名義や届出に不備がある |
| 賃貸借契約 | 残存期間が長い・譲渡の承諾が取れる | 定期借家で残りが短い |
| 数字の開示 | 決算書・試算表が揃う | 資料が出せない |
借入が残っていても不利とは限らない
借入があると安くなると考えられがちですが、実務では逆に働く場合があります。買い手に借入を承継してもらう組み方があるためです。
飲食・ナイト業態で数百万円を新規に調達するのは簡単ではありません。銀行は慎重で、公庫に自分で申請すれば数か月かかり、ノンバンクは金利が重い。
つまり買い手にとって既存の借入を引き継げることは、自己資金を温存して次に回せる価値になります。金利差から換算すると、銀行調達と比べて残債のおよそ8%、ノンバンク調達と比べておよそ28%に相当します。完済引渡し型と債務承継型の2案を併記して選ばせるのが実務です。
買い取り業者に売る前に|仲介との違い
「高く売る」と検索すると、店舗の買い取りを掲げる業者が数多く表示されます。仕組みの違いを理解してから相談先を選んでください。
買い取り業者は自社で買い、次の借主に転売します。手数料は無料でも、買値と転売値の差額が業者の利益になる。つまり売り手の手取りは、その差額分だけ削られます。
そして構造上、彼らは成約率という考え方を出せません。買い手が1社しかいない取引では、希望額に対して何パーセントで決まるかという比較が成立しないからです。
nightmaは仲介です。複数の買い手候補に水面下で当て、条件を競わせて価格を引き上げます。店名を伏せたノンネームで進めるため、従業員や取引先に知られないまま進行できます。
ただし公平に言えば、買い取りが有利な場面もあります。退去日が迫っていて買い手を探す時間が無いときです。時間が無いほど買い取りの相対価値が上がる。だからこそ、時間があるうちに動くかどうかが分かれ目になります。
仲介を選ぶ際の基準は、中小企業庁が中小M&Aガイドラインで示しています。手数料の体系と専任契約の期間は、契約前に必ず確認してください。
いま準備できること
スキームと時間が価格の大半を決めますが、その前提として揃えるべきものがあります。持っているかどうかで、使えるスキームが変わるためです。
書類|決算書・試算表・契約書
直近3期の決算書、月次の試算表、賃貸借契約書、リース契約書。これらが揃わないと収益ベースの評価ができず、造作譲渡のレンジに落ちます。
とくに賃貸借契約書は最初に開いてください。解約予告期間と残存期間が、使える時間そのものだからです。借地借家法は建物賃貸借の基本ルールを定めていますが、事業用店舗の予告期間は個別の契約条項で決まります。
許認可|名義と届出の整合
営業許可の名義が実態と合っているか。深夜酒類提供の届出が出ているか。ここに不備があると、事業譲渡・株式譲渡の候補から外れます。
設備|リースと所有の切り分け
リース物件は所有権が自分にないため、造作として譲れません。買い手が承継するか、中途解約して精算するかを先に決めておく必要があります。詳細はリース品の処理方法にまとめました。
準備のチェックリスト
以下がすべて揃っていれば、上位のスキームを検討できる状態です。数を数えてください。
- 直近3期の決算書がある
- 月次の試算表を出せる
- 賃貸借契約書の解約条項と残存期間を確認した
- リース契約の残債と残回数を把握している
- 営業許可の名義が実態と一致している
- オーナーが現場にいなくても営業が回る
- 解約予告をまだ出していない

最後の1つが最も重要です。解約予告を出した時点で、時間という最大の交渉材料を手放すことになります。
【提言】
売ると決めていなくても構いません。いまの状態でどのスキームが使えるかだけ、先に確認してください。スキームが分かれば、成約率のレンジが分かります。レンジが分かって初めて、売るかどうかを金額で判断できます。
よくある質問
高く売りたいという相談で実際に多い質問を5つに絞ってまとめます。
飲食店を高く売るには、まず何をすればいいですか?
売り方(スキーム)を決めることです。当社の査定実務では、希望額に対して実際にいくらで決まるかの比率が、造作譲渡で50〜75%、事業譲渡で70〜85%、株式譲渡で80〜95%と、スキームによって大きく違います。
同じ店でも、内装と設備だけを譲るのか、営業ごと渡すのかで手取りが変わります。掃除や写真の準備より先に、どの売り方が使えるのかを確かめてください。
売り出し価格を高く設定すれば、高く売れますか?
売り出し価格と成約価格は別物です。高く出しても、買い手が付かなければ値下げに追い込まれ、時間が経つほど条件は悪くなります。
当社の実務では、売主に時間の余裕がある案件は希望額の85〜95%で決まる一方、売り急いでいる案件は50〜70%まで落ちます。価格は数字の置き方ではなく、交渉できる時間があるかどうかで決まります。
赤字の店でも高く売れますか?
赤字であること自体は売却を妨げません。ただし評価の軸が変わります。
黒字なら営業利益の何年分という収益ベースで評価できますが、赤字だと内装・設備の価値が中心になり、造作譲渡のレンジに寄ります。当社の基準では赤字・売り急ぎの案件は希望額の50〜70%です。
赤字でも、退去日が決まる前に動けば選択肢が残ります。
買い取り業者に売るのと、仲介に頼むのはどちらが高いですか?
仕組みが違います。買い取り業者は自社で買って次の借主に転売するため、買値と転売値の差額が業者の利益になります。
手数料が無料でも、その差額分だけ売り手の手取りが削られます。仲介は複数の買い手候補に当てて条件を競わせるため、価格が上がる余地があります。
ただし買い手を探す時間が必要なので、時間が無いほど買い取りが有利になります。
営業を続けたまま売却できますか?従業員に知られたくありません。
営業中でも売却できます。むしろ営業していて設備が生きている状態のほうが、買い手にとって価値が高くなります。
当社は店名を伏せたノンネームで買い手候補に当てるため、従業員や取引先に知られないまま進行できます。飲食店営業許可は事業譲渡なら承継できるため、買い手が営業を止めずに引き継げる点も評価につながります。
売り方が決まった後、契約書の段階で手取りを削られないための注意点は造作譲渡のトラブルと個人間売買の危険にまとめています。
まとめ|高く売る順番は、時間・スキーム・価格
本記事の要点を整理します。
第一に、高く売るとは売り出し価格を上げることではなく、希望額に対して何パーセントで決まるかを上げることです。
第二に、スキームで25ポイント動きます。造作譲渡の中央値62%に対し、株式譲渡は87%。同じ店でも売り方で変わります。
第三に、時間で35ポイント動きます。売主に余裕がある案件は85〜95%、売り急ぎは50〜70%。これは交渉力の問題ではなく構造です。
第四に、書類・許認可・リースの整理でスキームが持ち上がります。決算書を揃えるだけで評価軸が資産から収益に変わることがあります。
第五に、解約予告を出す前にしか、この選択肢は全部そろいません。時間そのものが交渉材料だ。
NightMAの経営提言:
価格から考え始めないでください。順番は、時間 → スキーム → 価格です。まず賃貸借契約の解約条項を開いて、使える時間を確かめる。その時間で取れるスキームが決まり、スキームが成約率のレンジを決め、最後に価格が出ます。逆から考えると、時間を使い切ってから一番安いスキームで売ることになります。
nightmaは飲食店・ナイト店舗のM&A、居抜き(造作譲渡)、Web支援までを一気通貫で扱い、許認可の承継は提携の行政書士と連携します。売ると決める前の「いくらで、どう売れるか」から相談してください。
店舗のお悩み、nightmaに無料相談
売ると決める前でも相談できます。
飲食店・ナイト店舗のM&A・居抜き・造作譲渡・Web集客支援。
許認可の承継は提携の行政書士と連携します。
※ しつこい営業はありません
