「ビルを建て替えるから出ていってくれと言われた。いくら請求できるのか分からない」
「先方の言い値で押し切られそうだ」「造作に何百万もかけたのに、全部無駄になるのか」
立ち退きを告げられたオーナーの足が止まるのは、だいたいこの3点です。
ですがナイト店舗は、移転先が極端に少ない業態です。用途地域と保全対象施設の制約で候補が消えるため、「移転できない=営業廃止に近い」と評価され、営業補償が跳ねやすい。正しく動けば、立退料と造作代を二重に取れる場面すらあります。
結論から申し上げます。立退料に法定の計算式はありません。よく言われる「賃料の2〜3年分」も、弁護士・不動産各社が示す目安であって根拠のある上限ではない。金額は「内訳を何項目積めたか」で決まります。
この記事では、飲食店・ナイト店舗のM&A仲介として造作と契約書を数多く見てきた立場から、立退料の4つの内訳、裁判例50件の実額、そして造作分を立退料に上乗せさせる交渉の手順までを整理します。バレずに、かつ手取りを最大化して撤退するための実務です。
立退料に「相場」はない|賃料2〜3年分が目安にすぎない理由
最初に、読者がいちばん知りたい金額から入ります。ただしこの章の結論は「相場を信じるな」です。数字の出どころを理解しないまま交渉に入ると、相手の提示額が高いのか安いのかを判断できません。
よく見る目安と、その正体
ネット上の立退料相場は、弁護士事務所と不動産会社が経験則として出した数字です。法令にも判例にも「賃料の何ヶ月分」という基準は存在しません。
それでも複数の事務所が近い数字を挙げているため、交渉の出発点としては使えます。
| 用途 | よく示される目安 | 出どころ | nightmaの評価 |
|---|---|---|---|
| 住居 | 賃料の3〜6ヶ月分/6〜10ヶ月分 | 不動産会社・弁護士事務所 | 店舗とは桁が違う。混同すると自店を安く見積もる |
| 事務所 | 賃料の6ヶ月〜1年分 | 同上 | 移転が容易=補償が小さい類型 |
| 店舗(一般) | 賃料の2〜3年分(24〜36ヶ月) | 複数の弁護士・不動産会社が共通して提示 | 最も引用が多い目安。交渉の下限ラインとして使う |
| 店舗(長期入居・好立地) | 賃料の36〜70ヶ月分 | 一部の企業法務系事務所 | 提示元が限られる。上限側の可能性として持っておく |
幅が3倍近く開くのは、「賃料の何倍か」で決まる仕組みではないからです。実際には次章の4項目を積み上げた合計が立退料になり、それを事後的に賃料で割った倍率が語られているにすぎません。
【NightMA 専門家の視点】
賃料が安い店ほど、この倍率論は不利に働きます。賃料15万円の店で「2〜3年分」と言われれば360〜540万円ですが、造作に1,200万円かけていれば全く割に合わない。賃料は交渉の物差しとして最悪の指標です。金額は内訳で組み立ててください。
立退料の4つの内訳|どこを積めるかで金額が決まる
立退料は単一の金額ではなく、性質の違う4つの補償の合計です。相手方(貸主)が提示してくる金額は、たいていこのうち1〜2項目しか積んでいません。何が抜けているかを指摘できるかどうかが、交渉の分かれ目になります。

① 移転費用|引っ越しと新店舗の初期費用
移転先を借り、店を作り直すための実費です。もっとも異論が出にくく、最初に合意しやすい項目になります。
ナイト店舗は保証金も内装工事も重い業態です。ただし保証金の月数は一律ではありません。
nightmaの取扱実績では、六本木・銀座など都心の高単価エリアで賃料の10ヶ月以上、地方では2〜6ヶ月と、エリアと業態で2〜16ヶ月の幅に振れます。相場の月数で見積もらず、移転先候補で実際に募集されている条件を集めて積算してください。
実費を積算した見積書を先に用意しておくと、根拠のある請求になります。
② 営業補償|休業と売上減少の補填
移転による休業期間の逸失利益と、移転後に客足が戻るまでの売上減少分です。ここが最も金額に響き、かつ最も揉めます。
算定には直近の売上・利益の資料が要ります。申告を絞っていた店ほど、ここで自分の首を絞めることになる。数字を残していない店は、営業補償を請求する根拠を持てません。
③ 借家権価格|その場所を借りている権利の価値
借家権そのものの財産的価値です。繁華街の1階路面など、立地の希少性が高いほど大きく評価されます。
不動産鑑定士の評価が必要になる領域で、貸主側が自主的に積むことはほぼありません。請求する側が持ち出さなければ、テーブルに載らない項目です。
④ 造作・内装の残存価値|ナイト店舗で最も取りこぼされる項目
投じた内装・什器・設備のうち、まだ価値が残っている部分です。ナイト店舗は造作への投資額が大きく、本来ここが最大の請求根拠になります。
ところが実務では、この項目がまるごと抜け落ちた提示が普通に出てきます。理由は次章で説明する条文構造にあります。
| 内訳 | 中身 | 貸主が自発的に積むか | nightmaの評価 |
|---|---|---|---|
| ① 移転費用 | 引越・保証金・内装工事・什器移設 | 積む(合意しやすい) | 見積書を先に作る。実費なので削られにくい |
| ② 営業補償 | 休業中の逸失利益・移転後の売上減 | 渋る | 金額インパクト最大。直近3期の数字が武器になる |
| ③ 借家権価格 | その立地を借りている権利の価値 | ほぼ積まない | 好立地ほど効く。こちらから持ち出さないと消える |
| ④ 造作・内装の残存価値 | 内装・音響・照明・空調・什器の残価 | ほぼ積まない | ナイト最大の請求根拠。ここを落とすと数百万円単位で損をする |
裁判例50件で見る実額|業態別の金額と平米単価
目安ではなく、実際に裁判所が認めた金額を見ます。令和1年から6年までの立ち退き関連の裁判例およそ50件を集計したデータが公表されており、業種別の金額レンジと平米単価が確認できます。
自店の坪数を㎡に直して当てはめると、請求のレンジ感がつかめます。
| 業種 | 立退料 | 平米単価 | nightmaの評価 |
|---|---|---|---|
| 飲食店(居酒屋・喫茶等) | 120万〜6,500万円 | 3万〜133万円/㎡ | レンジが最も広い。立地と規模で40倍以上開く |
| ラーメン店 | 850万〜2,100万円 | 20万〜40万円/㎡ | 設備投資が読みやすく、評価が安定する類型 |
| 理容室・美容室 | 600万〜1,600万円 | 12万〜62万円/㎡ | 顧客が個人に付く点はナイトと共通 |
| 洋服店 | 400万〜900万円 | 15万〜75万円/㎡ | 造作が軽い分、補償も小さい |
| 歯科医院 | 200万〜5,000万円 | 27万〜86万円/㎡ | 設備が重く移転困難=高額側の典型 |
| 事務所 | 300万〜1,200万円 | 9万〜23万円/㎡ | 最も安い類型。店舗と同列に扱わせない |
| 個室ビデオ店舗 | 5,000万円 | 22万円/㎡ | 用途の代替性が低い業態は高く出る |
数字を出典元の集計(令和1〜6年の裁判例約50件の集計)で確認すると、金額を左右するのは面積そのものより「移転がどれだけ難しいか」だと分かります。歯科医院と個室ビデオが高いのは、設備の特殊性と用途の代替性の低さゆえです。
この論理はそのままナイト店舗に当てはまります。次章で詳述します。
ナイト店舗の立退料が高くなる3つの理由
ここからが、弁護士サイトにも居抜き業者のコラムにも書かれていない領域です。ナイト業態は「移転が難しい」という一点で、飲食店一般より補償を積み上げる根拠を多く持っています。
理由①|移転先で許可が取れなければ「移転」ではなく「廃業」
接待を伴う店は風営法の許可、深夜に酒を出す店は深夜酒類提供飲食店営業の届出(風営法第33条)が必要です。そして許可は、店舗ごと・場所ごとに取り直しになります。
移転先で許可が下りなければ、その事業は終わります。これは「引っ越し費用を出せば済む」話ではありません。
営業補償を算定する際、「移転可能性が乏しい」と評価されれば、補償は休業期間分では収まらなくなる。廃業に近い評価に寄っていきます。
理由②|用途地域と保全対象施設で、候補物件が激減する
風俗営業の許可が下りる地域は限られています。加えて学校・病院・図書館などの保全対象施設からの距離制限があり、条件を満たす物件は同じ街の中でも一部に集中します。
「駅の反対側なら空いている」では代替になりません。詳細は風営法の禁止地域と距離制限で整理していますが、交渉ではこの制約を地図と条例で可視化して示すことが効きます。
候補物件が現実に何件あるかを調べ、ゼロに近いことを資料で出す。これが営業補償を押し上げる最も実務的な手です。
理由③|所轄が変われば運用も変わる
同じ都道府県でも、警察署ごとに書類の求め方や事前相談の作法が違います。区をまたぐ移転は、許可取得のリードタイムが読みにくくなります。
休業期間が読めないということは、営業補償の期間が長く見積もられるということです。これも交渉材料になります。
【NightMA 専門家の視点】
2026年現在、ナイト店舗の立ち退き交渉で最も強い武器は感情論ではなく「代替物件が存在しないことの証明」です。用途地域図、保全対象施設からの距離、実際に募集中の適格物件リスト。この3点を揃えたオーナーと、口頭で「困る」と言うだけのオーナーでは、提示額が桁で変わります。
【核心】造作買取請求権は使えない。だから立退料に積む
この章が本記事の中心です。造作に数百万円かけたオーナーが「その分を返してもらう」ために使えそうな条文があります。ところが実務では、ほぼ機能しません。理由は条文の構造にあります。
造作買取請求権とは|借地借家法第33条
借地借家法第33条は、賃貸人の同意を得て建物に付加した造作について、賃貸借の終了時に時価で買い取るよう請求できると定めています。
条文だけを読めば、内装や設備の代金を貸主に請求できるように見えます。
ところが第37条の強行規定に、第33条は入っていない
同じ法律の第37条は、強行規定(特約で覆せない規定)を列挙しています。挙げられているのは第31条・第34条・第35条の3つだけです。
第33条は、そこに入っていません。
つまり造作買取請求権は、契約書の特約で排除できます。そして2026年現在の店舗賃貸借契約では、排除する特約が入っているのが標準です。
| 条文 | 内容 | 特約で排除できるか | nightmaの評価 |
|---|---|---|---|
| 第31条 | 建物賃貸借の対抗力 | できない(強行規定) | 借主に不利な特約は無効 |
| 第34条・第35条 | 転借人の保護 | できない(強行規定) | 同上 |
| 第33条 | 造作買取請求権 | できる(強行規定に含まれない) | 実務ではほぼ排除済み。頼りにしてはいけない |
そのうえ、請求できるのは「賃貸人の同意を得て付加した造作」に限られます。内装工事の際に貸主の書面同意を取っているケースは多くありません。
条文の壁を二重に越える必要があるため、造作買取請求権を正面から使える店はごくわずかです。詳しくは造作譲渡契約書の実務で整理しています。
だから「立退料の内訳④」に積み替える
結論は単純です。造作代を独立した請求権として立てるのではなく、立退料の構成要素として交渉のテーブルに載せる。これが現実的なルートになります。
造作買取請求権は特約で消せますが、立退料の算定において造作の残存価値を考慮することまでは禁じられていません。第28条は正当事由の判断で「財産上の給付をする旨の申出」を考慮すると定めており、その中身の内訳は当事者間の交渉で決まります。
造作分をいくらで積むか|自社の実勢データ
問題は金額の根拠です。「1,200万円かけました」という投資額は、そのままでは通りません。必要なのは「今この造作を第三者に譲渡したらいくらになるか」という市場価格です。
市場価格の当たりを付けるなら、エリア別の造作譲渡の募集額相場が公開されています。ただし募集額は売主の希望額であって成約額ではありません。実勢とは開きが出ます。
nightmaが実際に成約させたナイト店舗の譲渡データから、業態別の中央値を示します。造作の残存価値を主張する際の実勢の裏付けになります。
| 業態 | 譲渡額の中央値 | レンジ | 価値の中心 | nightmaの評価 |
|---|---|---|---|---|
| スナック | 225万円 | 150〜300万円 | 物件+常連 | 造作が軽く、金額は物件条件に寄る |
| 普通バー | 550万円 | 90〜1,900万円 | 箱+造作 | 内装のグレードで10倍以上開く |
| キャバクラ | 875万円 | 250〜1億3,000万円 | キャスト+実績+許認可 | 造作だけでなく許可の価値が乗る |
| ガールズバー | 1,385万円 | 150〜3,500万円 | キャスト+風営許可 | 造作評価が最も伸びやすい層 |
| ラウンジ | 1,950万円 | 900〜3,000万円 | 風営1号+立地 | 好立地×許可付きは高値で安定 |
スキーム別に見ると、造作譲渡の中央値が312万円に対し、事業譲渡は835万円で約2.7倍です。屋号・顧客・スタッフ・許認可・契約が乗るぶん、評価が変わります。
この差は、立ち退き交渉においても意味を持ちます。造作だけを金額に換算するのか、事業ごと第三者に渡す道を残すのかで、手取りが3倍近く動くからです。
貸主からの通知は「1年前から6ヶ月前まで」|期限を確認する
金額の話の前に、そもそも相手が法定の手続きを踏んでいるかを確認してください。手続きに不備があれば、契約は自動的に更新され、交渉の主導権はこちらに移ります。
ここで扱うのは貸主から出ていけと言われた場合の法定手続きです。自分から退去する場合の解約予告期間からの逆算は、居抜き退去のタイミング設計で扱っています。
期間の定めがある契約|第26条
借地借家法第26条第1項は、貸主が更新しない旨を通知できる期間を「期間の満了の1年前から6ヶ月前まで」と定めています。
この期間に通知がなければ、従前と同一の条件で契約が更新されたものとみなされます。しかも更新後の期間は「定めがないもの」となります。
期間の定めがない契約|第27条
貸主が解約を申し入れた場合、賃貸借が終了するのは申入れの日から6ヶ月を経過したときです。「今月中に出ていけ」という要求に応じる義務はありません。
そもそも正当事由がなければ通知できない|第28条
第28条は、更新拒絶の通知も解約の申入れも、正当の事由があると認められる場合でなければできないと定めています。
判断材料として条文が挙げているのは、双方が建物を使用する必要性、これまでの経緯、建物の利用状況と現況、そして明渡しの条件として財産上の給付を申し出た場合のその申出です。
立退料はこの最後の要素にあたります。つまり立退料は正当事由を補強する材料の一つであって、金さえ払えば必ず出せるわけではない。ここは押さえておいてください。
定期借家契約なら話が変わる|第38条
第38条の定期建物賃貸借は、契約の更新がありません。期間満了で終了するため、正当事由も立退料も原則として問題になりません。
契約期間が1年以上の場合、貸主は満了の1年前から6ヶ月前までに終了の通知をする必要があります。まず自分の契約がどちらかを確認してください。
- 契約書が普通借家か定期借家かを確認した
- 更新拒絶の通知が「満了の1年前〜6ヶ月前」に届いているか日付を確認した
- 通知書に正当事由(建替え・自己使用等)が書かれているか確認した
- 造作買取請求権を排除する特約が入っているか契約書で確認した
- 内装工事について貸主の書面同意が残っているか探した
立ち退き vs 居抜き売却 vs M&A|貸主の目的で最適解が180度変わる
立ち退きは「補償をもらって畳む」だけの話ではありません。貸主が何のために明渡しを求めているかによって、取るべき道がまったく変わります。ここを取り違えると、取れたはずの金額を落とします。

建替え・再開発が理由なら、居抜きは成立しない
建物を壊す前提なら、次のテナントは入りません。造作を第三者に売る道は消え、立退料一本での交渉になります。
この場合は内訳④(造作の残存価値)を立退料に積み込む交渉が唯一のルートです。原状回復の要否も併せて詰めてください。壊す建物にスケルトン返しを求められるのは不合理であり、原状回復義務の範囲を根拠に免除を交渉できます。
貸主が次のテナントを入れたいなら、二重に取れる可能性がある
「自分で使いたい」「賃料を上げたい」が本音の場合、建物は残ります。つまり造作を活かした居抜き・造作譲渡が成立する余地がある。
買い手を自分で見つけ、貸主に承諾を求める。立退料の交渉と並行して進めれば、立退料と造作譲渡代金の双方を取れる場面が出てきます。
ただし賃借権の譲渡には貸主の承諾が必要です(民法第612条)。承諾が下りる条件の見極めが要になります。
事業ごと譲るなら、造作の2.7倍が視野に入る
許可・屋号・顧客・スタッフを含めて譲渡できるなら、評価は造作単体より跳ね上がります。前掲のとおり自社データでは造作譲渡312万円に対し事業譲渡835万円です。
ただし移転を伴うと許可は取り直しになるため、成立するのは「買い手が別の物件で事業を引き継ぐ」ケースに限られます。全体像はナイトビジネスM&Aの全体ガイドで整理しています。
| 貸主の目的 | 建物は残るか | 取れる選択肢 | nightmaの評価 |
|---|---|---|---|
| 建替え・再開発 | 残らない | 立退料のみ | 内訳④を積む交渉が全て。原状回復免除も同時に取る |
| 自己使用・賃料増額 | 残る | 立退料+居抜き/造作譲渡 | 二重取りの可能性。買い手探索を並行させる |
| テナント入替(用途変更) | 残るが業態不可 | 立退料+設備の個別売却 | 什器・音響・空調は単体でも換金できる |
| 買い手が別物件で継続可 | — | 事業譲渡(M&A) | 造作単体の約2.7倍。許可の取り直し期間の設計が鍵 |
【提言】
立ち退きを告げられたら、最初にやるのは金額の計算ではありません。貸主の目的を確認することです。「建て替えるのか」「自分で使うのか」「別のテナントを入れるのか」。この一問で戦略が決まります。管理会社ではなく、オーナー本人の意向を確認してください。
持ちかけられたときの初動|やってはいけない3つ
最初の1ヶ月の動き方で、最終的な金額はかなりの部分が決まります。ここで挙げる3つは、実務で頻繁に起きている損失パターンです。
買い取り業者に相談する前に|仲介との違い
立ち退きの話が出ると、造作の買い取り業者に声をかけるオーナーがいます。買い取り業者は自社で安く買い、他へ高く転売して利益を出す構造です。手取りはその分だけ削られます。
nightmaは仲介です。複数の買い手を水面下で競わせて価格を引き上げ、店名を伏せたノンネームで進行します。取り扱うのはM&A(事業譲渡・株式譲渡)・居抜き・造作譲渡の3つで、店の規模と急ぎ度に応じて最適な手法を選びます。
仲介を選ぶ際の判断軸は、中小企業庁の中小M&Aガイドラインが基準を示しています。手数料体系の明示、専任条項の期間、テール条項の有無を確認してください。
立ち退き局面では、貸主との交渉と買い手探索を同時に走らせる必要があります。片方だけを扱う相手に任せると、もう片方の選択肢が消えます。
① その場でハンコを押さない
合意書・覚書・明渡し確認書の類にサインすると、後から内訳を追加する交渉は事実上できなくなります。「とりあえず日程だけ」という書面でも同じです。
② 口頭で金額に同意しない
「200万円くらいなら」と口にした瞬間、そこが上限になります。金額の話は、内訳4項目の見積りが揃うまで持ち出さないでください。
③ 先に原状回復の見積りを取らない
原状回復費は本来こちらの負担ですが、立ち退きの局面では免除や相殺の交渉対象になります。先に見積りを取って自分で払う前提を作ると、その交渉カードを失います。
リース物件がある場合は残債の扱いも同時に詰めてください。リース残債の処理を放置すると、退去後も支払いだけが残ります。
- 貸主本人の目的(建替え/自己使用/入替)を確認した
- 通知書の日付が法定期間内か確認した
- 書面へのサイン・口頭での金額同意をしていない
- 移転費用の実費見積りを作った
- 直近3期の売上・利益資料を揃えた(営業補償の根拠)
- 適格な代替物件が現実に何件あるか調べた
- 造作の市場価格(第三者に売った場合の金額)を把握した
- リース残債・保証金償却の条件を確認した
よくある質問
立ち退きを拒否し続けることはできますか?
貸主に正当事由がなければ、明渡しに応じる義務はありません。ただし正当事由の有無は最終的に裁判所が判断します。長期化すれば営業に支障が出るため、条件交渉での決着を目指すのが現実的です。
立退料の金額に法律上の基準はありますか?
ありません。借地借家法第28条は立退料(財産上の給付の申出)を正当事由の考慮要素として挙げるにとどまり、算定式は定めていません。内訳の積み上げで組み立てるしかありません。
造作にかけた費用は全額返してもらえますか?
投資額の全額が返る前提では考えないでください。評価されるのは残存価値であり、実務では「第三者に譲渡した場合の市場価格」が基準になります。
定期借家契約でも立退料はもらえますか?
原則としてもらえません。定期借家は期間満了で終了する契約だからです。ただし貸主が期間中の明渡しを求める場合や、終了通知の手続きに不備がある場合は交渉の余地があります。
立ち退きの話が出ていることを、スタッフや常連に知られたくありません
知られずに進められます。買い手探索は店名を伏せたノンネームで行い、内見も営業時間外に設定します。情報が漏れる典型は、業者に一斉に声をかけることです。窓口を一本化してください。
まず何から始めればよいですか?
貸主の目的確認と、通知書の日付確認です。そのうえで自店の造作・事業が市場でいくらかを把握してください。金額の相場観がないまま交渉のテーブルに着くのが、最も損をする入り方です。
立ち退きの交渉でも、明け渡しと引き渡しのどちらを求められているかで負担が変わります。2語の差は明け渡しと引き渡しの違いにまとめました。
まとめ|立退料は「もらうもの」ではなく「組み立てるもの」
立退料に法定の計算式はありません。よく言われる「賃料の2〜3年分」は複数の事務所が示す目安であり、上限でも下限でもない。金額は移転費用・営業補償・借家権価格・造作の残存価値という4つの内訳を、どこまで積み上げられたかで決まります。
ナイト店舗は、用途地域と保全対象施設の制約で移転先が極端に少ない。この「移転困難性」こそが、営業補償を押し上げる最大の根拠です。地図と条例と物件リストで可視化してください。
そして造作買取請求権(借地借家法第33条)は、第37条の強行規定に含まれないため特約で排除されているのが通常です。頼りにせず、造作の残存価値を立退料の内訳として交渉のテーブルに載せる。これが実務のルートになります。
さらに、貸主の目的が建替えでなければ、居抜き・造作譲渡・M&Aを並行させて二重に取れる場面があります。立ち退きは撤退のトリガーであると同時に、出口を選び直す機会でもあります。
NightMAの経営提言:
立ち退きを告げられた瞬間、多くのオーナーは「いくらもらえるか」を考えます。順番が逆だ。まず「自分の店は、いま市場でいくらの価値があるのか」を知ってください。造作単体で300万円の店と、事業ごとなら1,000万円で動く店とでは、突きつけるべき数字がまるで違う。相手の提示額が妥当かどうかは、自分の値札を持っていなければ永遠に判断できません。
nightmaは飲食店・ナイト店舗のM&A仲介として、M&A・居抜き・造作譲渡の3つを扱っています。立ち退きの交渉と並行して、あなたの店を最も高く評価する買い手を水面下で探すことができます。
相談・査定・着手金はすべて無料、秘密は厳守します。時間が味方をする交渉ではありません。通知書を受け取ったその日に動いてください。
立ち退きではなく、いまの場所で続ける道を探すなら賃料の見直しが先です。賃料減額請求で家賃を下げる手順と、下がらなかったときの出口を整理しています。
